COLUMNコラム
【コラム】入社後すぐ退職する社員の有給消化はどう扱う? 社労士が教える法的義務とトラブル回避策としての「分割付与」
本コラムでは、有給を付与されたばかりの労働者が退職願いを出し、有給消化を申し出た場合の取扱いが分かります。また、トラブル防止策として「分割付与」の戦略的な活用法を提示し、社労士の視点から就業規則の整備ポイントや労務管理の注意点を解説します。
入社直後の社員が退職する場合、有給はどう取り扱うか
法律上の付与日よりも前の日を付与基準日として、有給を全労働者に一斉に付与する「斉一的取扱い」を導入している企業では、入社直後の社員にも有給が付与されることがあります。そして、入社直後の退職で問題となるのが有給の消化です。
結論から申し上げますと、有給がすでに付与されていた場合、その申し出を会社が一方的に拒否することは法律上困難です。
理由:労働基準法は労働者有利に設計されている
労働基準法には、会社が有給取得の日をずらすことができる「時季変更権」が認められていますが、これは「別の日に休ませる」ことが前提の権利です。退職日を超えて時期指定することや、有給の行使自体を拒否できる規定は定められていません。
たとえ入社して間もない新卒・中途採用した社員であっても、雇用契約に基づいて発生した権利は、退職までの期間で自由に行使できるというのが現在の取扱いです。
具体例:有給消化の申出の有無による対応
例えば、斉一的取扱いを導入している企業において、4/1に入社した社員が、研修終了後の入社1ヶ月目に退職を申し出たケースを想定します。なお、斉一的取扱いで、有給を10日以上付与しているとします。
有給消化の申し出がある場合
上述したように有給の取得自体を拒むことはできません。残りの労働日数が少なく会社貸与品の返却や研修先への交通費の清算など退職までに必要な業務が間に合わないような場合は、社員に有給取得日の調整を“打診”することになります。
有給消化の申し出がない場合
労働基準法により、付与すべき日数が10日以上の労働者に対しては、使用者は基準日(付与日)から1年以内に最低でも5日分について時期を定めて取得させなければなりません。このルールは入社直後の社員にも適用されるため、退職日までの労働日数が取得させるべき日数よりも少ない場合を除いて、義務の履行が求められます。
結論:斉一的取扱いにはメリットとデメリットがある
有給の斉一的取扱いには、社員への福利厚生としての効果、会社の労務管理コストを削減する効果とメリットが多くあります。しかし、一度有給を付与すると現行の労働基準法は労働者の保護が優先されているため、会社側の心情として認めたくないようなデメリットも起こりえます。
そこで、一度にすべての有給を付与するのではなく、分割して有給を付与する制度設計を導入することも考慮されてみてはいかがでしょうか。
有給休暇の「分割付与」とは?早期離職によるトラブルを未然に防ぐ仕組み
有給休暇の「分割付与」とは、初年度において法定の付与日数を一括して与えるのではなく、その日数の一部を法定の基準日以前に付与することです。
理由: 有給を小分けして付与することができる
分割付与では、初回の付与では○日、次回で〇日と、法定のラインを上回る待遇であれば付与のタイミングと日数を会社の裁量で決めることができます。入社初日に10日全てを与えるのではなく、数日ずつ小分けにして付与することで、入社直後の「即退職・即消化」というケースに対する会社側のダメージを抑えることが可能になります。
また、年5日の取得義務に関しても、付与された有給が10日以上になった時点が起算点となるため、有給消化の申し出がない退職に関しては、会社が時季を指定して取得させる義務はありません。
具体例:リスクを分散するタイミングの設定
・入社当日に2日: 急な体調不良や役所の手続きなど、最低限のバックアップとして付与
・試用期間終了(3ヶ月後)に3日: 本採用への移行タイミングで、意欲喚起として付与
・入社半年(6ヶ月後)に残り5日: 法定の10日に達するように残りを付与
このように段階を踏むことで、万が一入社1〜2ヶ月で退職となった場合でも、消化される有給は「2日分」で済みます。
結論:リスク管理と福利厚生の「いいとこ取り」が可能
有給休暇の分割付与は、採用時のアピール材料(入社時から有給が使える)としてのメリットを維持しつつ、早期離職時のコストを最小限にするための実務的な制度と言えます。
分割付与を導入する際の注意点
分割付与を導入する際ステップでは、単に日数を分けるだけでなく、就業規則の改定と「基準日」の管理に注意を払う必要があります。
理由:一度前倒しした「基準日」は後退させられない
斉一的取扱いと同様に、有給を前倒しで付与した場合、その「最初に付与した日」がその従業員の基準日(権利発生の起点)として固定されます。次年度以降の付与も、この前倒しした基準日から1年ごとに行わなければなりません。
具体例:就業規則の改定と管理表の作成
分割付与を導入する際のステップは、以下の手順で行います。
1,就業規則(賃金・休暇規定)の改定: 「入社時に〇日、〇ヶ月経過後に〇日付与する」旨を明記し、労働基準監督署へ届け出る。
2,管理台帳の整備: 分割して付与した日と、合計日数を正確に記録する。
3.次年度付与日の確定: 入社当日に一部付与したなら、翌年の付与日も「入社から1年後(=本来の1年6ヶ月後より半年早い)」になることを把握しておく。
| 項目 | 従来の運用(一括) | 分割付与の運用(例) |
| 入社時 | 0日 | 2日 |
| 3ヶ月後 | 0日 | 3日 |
| 6ヶ月後 | 10日 | 5日 |
| 翌年の付与日 | 入社から1年6ヶ月後 | 入社から1年後 |
結論:長期的な管理コストを見据えた制度設計を
分割付与を導入する際のステップを誤ると、意図せず法定基準を下回ってしまい、法違反を指摘されるリスクがあります。必ず「6ヶ月時点の合計が10日以上」になるよう設計し、次年度以降のスケジュールを社内で管理することが求められます。
F&Partnersの社労士からの提案
入社直後の退職は事業の計画に大きな影響を与えるだけではなく、適切な対応を取れなかった場合に労使間のトラブルを招き、現場や経営者の負担となります。F&Partnersではトラブルが起きた後の労務相談はもちろん、トラブルを起こさせないための提案を行います。是非お気軽にご相談ください。
